それなのに心臓は勝手に動いている

エッセイ、経験談、持論を綴るだけ。

冷蔵庫に眠らせる。

 

 

定時きっかりで帰り支度をし、タイムカードを押す。

靴を履きながら雑に押されたカードには「17:06」と印字されている。

玄関の扉を開けると労働の呪縛から解かれた解放感とは相反して

一月は冷たい空気だった。

いそいそと帰宅する途中にあるセイコーマート

週2くらいで通うそのセイコーマートに入店する私はもはや導かれているように思えた。

 

私はここでいつも「安らぎ」を買っている。

大した量買わないのにかごを持ち、一直線でアルコール飲料のコーナーへと向かう。

黒いからだにまとった金色にきらきら輝くそのラベルには

「DANTI」と書いてある。

これが、私が最近ハマっているスパークリングワインの「ダンチ」である。

本来は「ダンティ」と読むのだろうが、

私はふざけて「ダンチ」と呼んでいる。

 

 

1人暮らしの家に帰ると冷えた部屋が出迎える。

ストーブを付け、洗濯ものを洗濯機にぶちこみ、すぐシャワーを浴び、

浴室から出るころには部屋が温まっている。

晩御飯を作りながら合間に洗濯ものを干す。

自称「効率厨」の私のルーティーンである。

これらはすべて晩御飯とともに頂く「ぽしゃけ」(お酒)の為だ。

 

晩御飯の用意が出来たところで

プラスチックでできた金具を慣れた手つきで外し、

コルク栓を回しながら上へ引っ張ると

ぽんっといい音をたてて抜ける。

これがぽしゃけぱーてぃーの開幕の合図である。

 

とはいってもばかばか飲むような飲み方は休日の前の日にするものであって、

こんな平日の日は瓶の半分くらい飲んで

あとは次の日にとっておくのが嗜みというもの。

一日経って炭酸が少し抜けたダンチは炭酸で紛れていたアルコールが

前日よりも強く感じることができてこれはこれでいいと気づいたからである。

(ダンチに香りはあまりないので香りが削がれるという心配もない)

アルコール度数は11%なので瓶の半分でもほろ酔いで眠りにつくには十分だ。

ばかほど飲めば記憶がなくなったり情緒が不安定になって

楽しくなったり悲しくなったりする。

だが、自分の中の「適量」さえおさえてしまえば、

その日一日、自分の頭を駆け巡った様々な感情が無に還る。

ぽしゃけぱーてぃーが、一日の「リセットタイム」になるのだ。

大体お酒を飲むと何も手につかなくなるので

自然と体は布団へ誘われすぐに眠れる。

これがアラサー女のしがない一人暮らしの全貌である。

兎にも角にも、今日を終えようとしている私は

明日の私にバトンを渡さなくてはならないのだ。

明日の私が苦しくならないよう、今日も私は半分まで飲んだダンチを

百均で買ったワインボトルキャップで蓋をし、

冷蔵庫に眠らせる。